好きになっちゃ、だめでしたか?

 ううん、春樹君はそんな人じゃない。春樹君は名前の知らないわたしを励ましてくれるような、優しい人なのだから。

「そうだよね、今のままがきっといいんだよね」

 めいは静かに「うん、多分ね。少しの間は辛いかもしれないけど」と言った。

「それに、これでるいだってきっと吹っ切れるよ。男子なんてたくさんいるんだし、きっと春樹君よりもいい人だっているから。だからさ、今度からはもし告白して来てくれた男子がいたら、向き合ってみるのもいいかもね? あ、でも、もし春樹君が途中で気付いてるいのところにきたら、そのときは付き合えばいいと思う」

 春樹君の顔を思い出すけれど、そんな未来は来ないような気がした。

 彼の顔は、幸福のど真ん中にいる人の表情で、あれはどう見ても彼女のことを好きだという風にしか見えない。

 もし仮に、幼い頃にわたしを好きだったとしても、多分今は彼女のことを心から好きでいると思う。

「るい?どうかした?」

「ううん、なんでも。ごめんね、いろいろ心配かけて」

 めいは、わたしにカフェ特製のチョコレートケーキを奢ってくれた。

 少しだけ苦くて、今のわたしにはぴったりだった。