「上野さん、一緒に帰らない?」

 神山君がわたしの席に来てそう言ったとき、クラス中の空気が固まったような気がした。

 クラスメイトの視線、特に女子の視線が肌に突き刺さってくる。

「あ、うん」

 けれど神山君はそんなの気にしていなくて。

 周囲から、え、上野さんと神山君付き合ってるの? や、上野さん告白したんだ、や、えー狙ってたのに、という声が聞こえてくる。

 そんな声に耐えきれず、鞄を抱いてすぐに廊下に出ると、神山君は「あんなの気にしなくてもいいよ」と笑った。

 廊下を2人で歩いていると、今度は別のクラスの人たちの視線が気になる。
 
 神山君が神々しいくらいに顔がよすぎるせいで、注目の的になってしまう。

「す、すごいね、なんか」

「そのうち、みんなも気にしなくなると思うよ」

 神山君はどこまでも余裕だ。

 駅までの道、神山君はさりげなく道路側を歩く。

「ねえ、上野さん」

「は、はい」

 緊張しているせいで、声が裏返ってしまう。

「留衣、って呼んでもいいかな?」

「え、あ、あの」
 
 留衣、と神山君がいった瞬間、身体がばらばらになりそうなくらいに心臓がはやく動いて、息が苦しくなる。

「えっと、はい、その、どうぞ」

「ありがとう。その、留衣も、名前で呼んでくれると嬉しい」

 と言う春樹君は、今日ははじめて顔を赤くした。

「えっと、じゃあ、春樹君、でいいかな?」

「あ、うん、春樹君、で」

 神山、ううん、春樹君の耳は真っ赤で、今にも機関車みたいに蒸気が噴き出してきそうだった。という自分もきっと、同じくらい赤い。

「やばい、かも。名前呼ばれるの」

「そ、それは、わたしも同じです……」

 クラスメイトがわたしたちをちらちらと見ながら追い越していく。

 ふと後ろを向くと、ニヤついた顔の蒼が見えた。