蒼は広場の周りにあるベンチに1人座っていた。花火には背中を向けている。

 心臓がうるさすぎる。

 少し離れたところで立ち止まって、深呼吸をする。

 空を見ると星が出ていた。普段住んでいるところとは比較できないほどにたくさんの星が輝いている。

 手をぎゅっと握って蒼に近づいていく。

「蒼」

 蒼はこっちを向いた。

「留衣。隣座る?」

「う、うん」

 蒼の隣に座るとうるさい心臓がますますうるさくなって、蒼に聞かれてしまわないか心配になる。

 蒼は空を見て「きれいだなー」って呟いている。

「月が……きれいですね」

「ん? 確かにきれいだよな」

「月がきれいですね」

 蒼はこっちを見た。目がまんまるで、息が止まっているように見えた。

「知ってる? 夏目漱石の」

 蒼は夏目漱石が好きだからきっと知ってるはず。

「知ってるけど……」

 蒼は一度視線を逸らしてまたわたしを見る。

「今の、わたしの蒼への気持ち」

「え? でも……神山が好きなんじゃ」

「蒼のこと、好きになっちゃだめだった?」

 蒼はわたしから目を逸らして、手で顔を隠している。

 不思議なことに、私の心臓は落ち着いていた。

「なわけないだろ……。本当に、本当に俺でいいの?」

「蒼がいい。蒼が話してくれなかった時間、すごく寂しかった。こんな時間嫌だって思った。それに、蒼と一緒にいる時間が1番自分らしくいられるの」

 蒼はわたしに背を向けて「ちょっとやばい」と声を漏らす。

 見える耳は真っ赤になっていて、わたしまで心臓がどきどきしてきた。