どれでも好きなの頼め、奢ってやるから、と言われたので遠慮なく一番高いカレーを注文した。「仕方ねえな、まったく」と言いながら留衣の兄貴は本当に奢ってくれた。

「で、どうしたのよ? なんかあった?」

 コップ一杯の水を一気に飲むと、本当暑いな、と手で顔を仰ぐ。

「告白、やっぱり取り消しって」

 は? と言う声が耳に響いてくる。

「告白取り消し? またなんで」

「純粋な幼馴染だった頃みたいに、留衣とは笑って過ごしたい。でも、告白したせいで……」

 視線は話すごとにどんどんと落ちてくる。最後にはテーブルに乗せている自分の手しか見えなくなって。

 留衣の兄貴の笑い声をいつかいつかと待っているのに、なかなか聞こえてこない。

 ちらりと顔を見ると、唇を尖らせて窓の外を見ていた。

「分からなくもないが……」

「結局俺、なにがしたかったんだって話っすよね」

 はっと息が漏れた。

「だな、確かに」

 留衣の兄貴の容赦ない肯定で、心が折れるどころか笑いがこみ上げてくる。

 馬鹿じゃねえの俺。だったら最初から告白なんてすんなよ。

 なんて、してしまったことを後悔してもあとの祭りで。

 それなら過去のことなんて考えるんじゃなくて、未来のことを考えたほうが絶対にいい。これからどうやって留衣と接していくかを考えたほうが有意義だ。

 理屈なら簡単に正解が出せるのに。

「留衣は蒼の前でどんな感じなの?」

「よそよそしいというか」

 と言うと、留衣の兄貴は「それって留衣が意識してる証拠じゃん」と、矢崎と同じことを言ってきた。

 でも俺は知っている。仮に俺を意識しているとしてもそれは単に意識しているだけで、神山のように好きという気持ちを向けられているのとはまた別だということを。

「仮に意識してくれてたとしても……ライバルは神山ですよ?」

「まあ、まあ……」

 眉がぴくぴくと動いている。

「大事なのは留衣の気持ちだからな」

「そうですよね……」