好きになっちゃ、だめでしたか?

「あれ、なにしてんの?」

 音楽室付近を歩いていたら、前から歩いてきたのは留衣の兄貴だった。

「いや……」

 すぐに背中を向けて立ち去ろうとすると、瞬間移動のごとくに横に来た。

「なんだよ元気ないな。話聞いてやるよ。昼でも食べながら」

 横目で見ると、にやっと口元を上げた。

「ただなにがあったか知りたいだけじゃないですか」

 留衣の兄貴は肩に腕を乗せてきて「一人で悩んでるよりだったら、他人に話したほうが楽になれるぞー」と、玄関に向けて歩きはじめる。

 階段もそのままおりようとしたので、さすがに身体を離した。

 玄関まで来て自分のクラスの靴箱に来た瞬間、目にはいってきたのはまさかの留衣だった。

「蒼」

 留衣はほとんど表情を作っていない。

「留衣……」

「おーい、蒼」
 
 そこに登場したのは留衣の兄貴だ。俺の肩を抱くと「留衣ごめん。今日は蒼貸して?」と、親指を立てている。

「あ、うん」

 俺はそのまま腕を引っ張られる形で留衣の前から姿を消した。

 門まで行く途中うしろを見ると、まだ留衣は外には出ていない。

 ぼんやりと、さっきの場所に立っているのが見える気がした。

 明らかになにかを言いたげに俺の顔を見ていて、じゃあその内容を聞きたいかと言えば正直怖い。

 どんな話をされるかを考えただけで心臓がばくばくして、倒れそうになる。

 聞きたいはずの留衣の声を、聞きたくないと思ってしまう。

「お前ららしくないな」

 留衣の兄貴はぼそりと呟いた。

 門を出て駅に来て電車に乗って、家の最寄りの2つ先の駅で降りた。

「よしっ、カレーでも食うか」

 留衣の兄貴は最近話題になっているカレー専門店へ連れてきた。

 平日なのに結構混雑している。

 店にはいった瞬間、スパイスの香りが鼻の穴にはいってくる。