好きになっちゃ、だめでしたか?

「留衣、これから家帰んの?」

「うん、帰ろうかなって思ってるけど」

 留衣は一度神山の座っているほうに視線を向けた。その視線に含まれている感情を考えたくないのに想像してしまう。

「なら一緒に帰る? なんなら昼どっかで食べてくとか」

 留衣は一瞬かたまりすぐに「うん、なんか食べてこっか」と少しだけぎこちない笑みを見せた。

 留衣は通信簿を鞄にしまうと椅子から立ち上がる。そのときにまた神山のことをちらりと見る。

 俺も続いて椅子から立ち上がり、教室を出る。

 二人並んで玄関までの廊下をほとんど無言で歩く。

 好きだと思う前は、2人で並んで歩くくらいなんともなかった。恋人だと勘違いされようが、ただの幼馴染だから、とからかってくるやつらに笑って返していた。

 でも今はどうだ?

 ただ2人で並んで歩いているだけなのに手に汗かいてきて、もしからかわれたらなんて言えばいいのかって答えを必死に捜している。

 隣を歩いている留衣を見ると目が合った。

「あ……蒼は、なに食べたい?」

 留衣は無理矢理口角を上げたようだ。

「なんでも、留衣が食べたいので」

 こんな風に気まずい空気を作りたいわけじゃなかった。

 普通の幼馴染だった頃のように、ただ笑い合って過ごしたいだけなのに。

 玄関に着くと先に留衣が靴を履き替える。けれど俺はその場に立っていて。

「蒼?」

 留衣は頭の上にクエスチョンマークを作って俺を見る。周囲に人はいない。

「ごめん、俺今日用あったんだったわ。あとさ……告白したことも忘れて。やっぱ俺らにこんな空気合わないよな」

 自分から告白しといて、自分からこんなことを言うなんて情けないと思う。
 
 それに、こんなこと言っても今までの留衣との関係が戻ってくる保証なんてない。そもそも壊してしまったのは自分なのに。

「俺やっぱ留衣の幼馴染が合ってるよな。神山みたいにかっこよくないしさ。留衣の恋、応援してるわ」

「え、蒼」

 俺は来た道を戻る。かと言って教室に戻ることはできず、適当に廊下をふらつく。