好きになっちゃ、だめでしたか?

「もうすぐ夏休みだねって話だよ」

 留衣ではなく、まるで恋人であるかのように神山が答える。

「まあ、確かにそうだな」

「大野君は、夏休み予定あるの?」

 なぜか留衣ではなく神山との会話になってしまっている。

「いや、べつに」

 神山と俺が話している間に、留衣はいつの間にか矢崎の隣にいた。

 留衣は俺たちのところにいたときとは違い、いかにも気の抜けた顔で矢崎と話す。

「俺、やっぱ留衣のこと諦められないから。神山が留衣に本気でも」

 神山は俺の顔を見てふっと笑った。

「そっか。最後は留衣が選ぶことだし、そもそも俺たちどっちもフラれる可能性もあるしね」

 神山はきれいな顔に、少しの寂しさを浮かべた。確かにそうだ、どちらかが選ばれる前提で話をしているけど、どちらもフラれるかもしれないんだ。

「つうかさ、本当に留衣のこと好きなわけ? 幼いときから」

「一目惚れだよ。まあ、そのときも隣には大野君がいたけどね」

 神山の言い方には揺れがない。つーか。

「俺?」

「大野君と留衣と3人で2回だけ遊んだんだよ、まあ、覚えてないのも仕方ないか」

「ごめん。留衣だけじゃなくて俺まで覚えてないとか。じゃあ、勘違い、とかじゃなかったんだな」

 神山は俺の言葉を聞くと、ははっと笑いはじめた。

「勘違いって、みんなに言われる。でも、最初から僕はちゃんと留衣しか見てないよ。大野君がいるって分かってても好きな気持ちは変えられない」

 ああ、そうか、と妙に納得してしまった。

 俺たちがただ勘違いして、わーわー騒いで。
 
 でもそのおかげで俺は自分の気持ちに……。

 2人で話していると、いつの間にか留衣と矢崎の姿はどこにもいなくなっていて、結局男2人での登校になっていた。

「お前って、なんつーか、すげえな」

「褒め言葉?」

 神山はライバルと話していると言うのに、一切眉を顰めたりしない。

「一応」

「ありがとう」

 笑う神山の表情は、男の俺でも心臓を高鳴らせるほどの威力があった。