留衣が神山を連れて教室を出て行ってから、俺の頭の中は100%2人のことで埋めつくされていた。

 そのせいで帰りは反対方向の電車に乗ってしまうし、電柱にぶつかってしまうし。

 あれから2時間が経つけれど、留衣の姿はまだ部屋にない。

 部屋でじっとしていることもできなくて、そこらを走ってこようと家を出たとき、留衣がちょうど向こうから歩いてきた。

 1人で、心ここにあらず、という感じだった。

「留衣」

 名前を呼ぶと、視線が上に向く。ようやく俺に気付く。

「あ、蒼」

 いろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざったような表情を見ると、自分の中のなにかが動かされる。

「留衣」

 名前を呼ぶと、思いが溢れてくる。

「ど、どうしたの?」

 だから考えてもいなかったのに、言葉が勝手に出てきてしまったんだ。

「留衣、好きだ」

 留衣の目が大きくなる。ただでさえ悩んでいる留衣に今言うべきじゃなかったのかもしれない。

 だけど抑えきれなくて。

「え、あ、蒼?」

「留衣のこと、好きになってた。だから、俺のこと見てほしい」

「あ、蒼」

 留衣は、さっきよりもさらに複雑な表情を浮かべる。

「返事はすぐにじゃなくていいから、てか、すぐに返事しなくていいから、とにかく考えてほしい」
 
 俺はすぐにまた家の中にはいって、扉に寄りかかる。

 って、なに言ってんだ自分、絶対留衣のこと困らせて。ああ、もう。
 
 しかも逃げるように家の中に駆けこむなんて、ダサすぎる。