注文し運ばれてきた水を飲み、向かいに座る春樹君を見る。

 顔を合わせているこのシチュエーションに、手に汗をかいてくる。

「あ、えっと、その……」

 手のひらで制服のスカートを擦る。

「大丈夫、ゆっくりでいいから」

 春樹君はやっぱり優しくて、目が合うとまた心臓が飛び跳ねて。でも、蒼にも同じように感じていて。

「ありがとう」

 わたしは深く息を吸って、ゆっくりと吐いていく。

「あの、ね。その、春樹君の初恋の人って、本当にわたし、なのかな?」

「留衣だよ。留衣で間違いない」

「ほ、本当に?」

 うん、絶対に、と春樹君はわたしの目を真っ直ぐ見る。

「まあ、留衣はあのとき大野君の背中に隠れてて、ほとんどこっち見なかったけどね。でも、その、大野君と笑ってるときの留衣の顔に一目惚れした。もちろん今でも好きだよ」

 好きだよ、の一言に、どうしようもなく感情が溢れてくる。

「本当に、わたしなの?」

「あのときと同じように大野君もいるから、間違いないよ」

 蒼も一緒に?

「わたし、勘違い、してて。春樹君の言うるいちゃんは、るいさんのことだと思ってて」

「うん、まあ、ちゃんと言わなかった僕が悪いから。留衣」

 さっきまで笑っていた春樹君は急に真顔になった。

「な、なに?」

「もう一度、ちゃんと考えてほしい。僕は今でも留衣のことが好きだよ。留衣が大野君と話してると嫉妬するし、自分が隣にいたいって思う。水族館で留衣の笑顔見たとき、やっぱり好きだって思った。子どものときよりも、好きだと思った。もちろん、ほかにも留衣の好きなところたくさんある。とにかく、できればもう一度チャンスがほしい。それでもだめなら、そのときはちゃんと諦めるから」

 春樹君の顔を見ると、今すぐ抱きしめたくなってしまう。
 
 けれど、今は答えを出せなくて、春樹君に好きだって言われているのに、蒼の顔も浮かんできてしまう。

「うん、その、ちゃんと考える」

 今はこれしか言えない。

「よかった、ありがとう」