好きになっちゃ、だめでしたか?

「あ、お邪魔してます」

 一華はわたしといるときとは明らかに違って、目が大きく開いていて顔もほんのりと赤くなっている。

「いえいえ、女子が2人ってことは、まさか、恋バナ?」

 お兄ちゃんの顔は明らかに緩んでいる。

「そ、そうだけど」

「えーなになに? 進展あった?」

 なんの用事で来たのか分からないお兄ちゃんは、わたしの部屋にはいって扉を閉め、一華の隣に座った。2人の距離はかなり高くて、一華は少しだけ反対側にお尻を移動させた。

「進展、とかじゃないんだけど」

 と、お兄ちゃんに言ってなかったもろもろを全て話した。

「いや、めっちゃ進展じゃん。まじ、蒼、ったく、言うならちゃんと言えばいいのに。つうか、話を聞くかぎり、その春樹君とやらは普通に留衣のこと好きじゃん? 水族館でキスまでしたし」

「ちょ、お兄ちゃん」

「キ、キス?」

 目を見開いた一華は、昔のロボットみたいに首をかく、かく、と動かしながらわたしを見る。

「い、いつの間に。ていうかお兄さんなんで知ってるんですか」

 見開いた目は、今度は探偵が謎を解くときみたいに鋭くなる。

「ちょとした尾行を」

 一華はまた目を見開いた。

「まあ、でも……」

 と言ったあと、すぐに一華は、ううん、なんでもない、と首を振る。

 一華はなにか知ってる。でも、今わたしに言えないってことはきっと、今言うべきことじゃないのかもしれない。

 きっと一華のことだから、タイミングを見計らって教えてくれるかもしれない。

「まあ、とりあえず神山君とちゃんと話したほうがいいと思う」

「俺もそう思うわ。本心をちゃんと聞き出す。いい?」

 お兄ちゃんはまるで保護者のようだった。

 春樹君とちゃんと向き合う。頭では分かっているけれど、ちゃんとできるか分からない。

 一華を見ると「大丈夫だよ、留衣なら」と、手を握ってくれた。

 その晩、一華は寝る前にいろんな話をしてくれた。

 今度の試験やばいね、とか、この前うちの前に猫がいて撫でようとしたら逃げられた、とか。

 途中「留衣は、どっちと一緒にいたいと思う?」と聞かれ、けれどなにも答えることができなかった。

 わたしはどつちと一緒にいたいんだろう。なにが幸せなんだろう。

 寝る直前「もしいなくなったらすっごく寂しいって思うほうがどっちか考えてみたら?」と一華は言った。

 そのまま、わたしたちは夢の世界へと旅立っていった。