好きになっちゃ、だめでしたか?

 留衣、と名前を呼ぶ声が聞こえる。
 
 意識がふっと戻り、けれど瞼が重くて開けられない。

 いつの間にか寝ていたみたいだった。どれくらい寝ていたのだろう……。

 周りからはいろんな人の声が聞こえてくる。

 そのとき「留衣、好きだ」と言うはっきりとした声が耳にはいってきた。

「神山じゃなくて、俺を見て」

 身体全体が心臓になったみたいに、鼓動がうるさい。

 わたしは少しずつ目を開けて、今まさに起きたような演技をした。

「あ、あれ? 寝てた?」

 まだ蒼の顔を見られない。

「ったく、途中からいびきかいて寝るんだから」

「い、いびきはかいてないでしょ」

「ま、嘘だけど。でも、完全落ちてたよな? 何回か声かけたのに無反応だったし」

「だ、だってあんなに気持ちよくて、暗くて」

 話している途中、留衣、好きだ、とさっきの声が脳内に流れこんでくる。

 俺を見て、俺を見て、俺を見て。

 その言葉通り蒼を見ると、1人涼しい顔をしてあくびをしていた。

「なに? なんか付いてる?」

 目が合って、つい勢いよく逸らしてしまう。

「え、ううん、なにも」

「変な留衣。つうか、出ないと」

「そうだよね」

 今まで蒼をそういう風に見たことは一度もなかった。幼馴染で、いつも隣にいるのが当たり前で。

 好きとか、そういうのを超えた関係だと思っていた。

 でも、あんな言葉を聞かされて、意識しないなんてほうが
おかしい。

 外に出ると蒼は立ち止まってわたしを見た。

「なんか、昼でも食べる?」

「あ、うん」

「んじゃあ、適当に駅前で食べるか」