その後も、何度も何度も文化祭クオリティとは思えないほどに驚かされ、ようやくゴールする頃には、握った手が汗だらけになっていた。

「ご、ごめん。濡れただろ、手」

 蒼はゴールを出た瞬間に手を離す。

「多分、わたしの汗。手、洗おう」

「だな」
 
 心臓がまだどきどきしている。でも、お化け屋敷でのどきどきなのか、蒼に何度も抱きついてしまったせいのどきどきなのか、分からない。

 それに……手を握られているとき、お化けよりも蒼の手を意識することが何度もあった。

 ちらりと見ると目が合う。蒼は幼い頃みたいにぱっと顔を明るくした。

「すっきりした?」

「う、うん」

 あまりにも優しく笑うから、普段みたいに接することができない。

 蒼ってこんなんだったっけ?

 蒼は、そろそろ文化祭も終わりだなー、と、教室で休む人たちに目を向ける。

 みんな、緊張感が解けたように笑い合っている。

 2日目は一般公開はなくてうちの生徒だけなので、昨日に比べると断然静かだった。

 その静けさのせいで、自分の鼓動をより強く感じてしまう。

「片付け終わったら、キャンプファイヤーあるよね、確か」

「確かそうだったな」

 と、蒼はスマホを見た。

「確かにあるな」

「キャンプファイヤー、好きな人と一緒に炎を見ると両思いになれるらしいよ」

「うちの学校にもそういう噂あんのな」

 蒼はわたしの顔を見ない。

 そういえば、蒼に彼女がいたという話を一度も聞いたことがないけれど、好きな人くらいはいるのかな。

「ねえ、蒼って好きな子いないの?」

 蒼は驚いたようにわたしを見てくる。目が面白いくらいに丸い。

「は、は? なんで、急にそんな話に?」

「その反応、いるんでしょ。顔赤いし。動揺しすぎだよ」

 蒼は、い、いねえし、と言うけれど明らかに顔が赤くなって目は泳ぎ、声が上擦っている。