アレクサンドラの余裕の笑みに不気味さを感じたのかサティスが「な、なんだ?」とたじろぐと、拍手と共に「殿下、素晴らしいですわ」とアレクサンドラは絶賛した。

「なっ!?」

 驚くサティスの腕に、エルは不安そうに自身の腕をからめる。誰がどう見ても恋人同士な二人をアレクサンドラはさらに祝福する。

「お二人は、真実の愛を見つけられたのですね」

 ここまではアレクサンドラ的に問題がない。数年間実行してきた『サティス殿下名君計画』が白紙に返ることは悲しいが、サティス本人が望んでいないようなので仕方がない。

 サティスのやり方や場所は問題だったが、ただの婚約破棄なら何も問題はなかった。

「そ、そうだ! だから、お前は自らの罪を認めて……」
「わたくしの、罪、ですか?」

 問題なのは、これがただの婚約破棄ではなく、これをきっかけにサティスがアレクサンドラを陥れようとしていることだ。彼の計画では、アレクサンドラを断罪のち修道院に送り、数年後、恩赦で呼び戻し、側妃に迎えて恩を売り一生こき使う気でいるそうだ。

(断罪した相手を側妃にするなんて、できるわけがないでしょうに……相変わらずサティス殿下は、現実を見ていらっしゃらないのね)

 幻想の世界で生きているサティスは、側近たちを使いアレクサンドラがエルをいじめたという証拠をでっち上げるように命じた。それを受けた側近たちは、すぐにアレクサンドラに報告してくれた。

(殿下に好かれているとは思っていなかったけど、ここまで嫌われているなんて……)

 これには、さすがのアレクサンドラも傷ついた。サティスを生涯支えようとしていた忠誠心は、静かな憎悪へと変わっていく。

(このわたくしを(おとしい)れるというのなら容赦は致しません。この場で……貴方を潰します)

 凄みを利かせて微笑みかけると、サティスはたじろぐ。

 アレクサンドラがようやく殊勝(しゅしょう)な姿を見せたことで、サティスは満足したようだ。

「始めからそういう態度でいれば少しは可愛げがあったものを……。私は心が広いからな。いいだろう、お前の最後の望みを言ってみろ」

 サティスの顔には、優越感が浮かんでいる。

「わたくし、実はとある筋から『殿下が真実の愛を見つけられたようだ』と事前にお聞きしていまして、その素晴らしさに感銘を受け、殿下を見習ってみたのです。今からその報告をさせてくださいませ」
「……は?」