「伊織、なんか言った?」

「え?あたしは何も……」

 いや、いや。

 間違いなく聞こえた。
 若い女の子の声で、最初の方は曖昧だけど、「けて」だけは確実に聞き取れた。

 でも伊織は。というか、今教室にいる伊織以外のクラスメイトのうち、誰も先程の声に反応しない。

 ということは……幻聴?

「あのさ、葵」

 先程の質問も含め、今日の私の言動が相当おかしかったのだろう。
 からかっている訳でもない、至って真剣な声のトーンで伊織は言った。

「調子悪いんでしょ?次の授業受けずに、保健室に行ったら?」

 頭痛くらいなら遠慮したところだけど、幻聴のことを考慮すると……これに従った方がいいかもしれない。

 直感的にそう思った。

「……うん、そうするよ。先生に保健室行ったって言っておいて」

「もちろん。行ってらっしゃい」

 さあ、次の授業が始まる前に。

 伊織に後のことはお願いして、急いで教室を出て行った。