「うわぁっ!」

 目の前を横切る人影に気が付かず、ゴツンと鈍い音。
 同じくらいの背丈だったから、互いに頭をぶつけてしまった。

「ごめん!急いでたからつい……」

 非があるのはどう考えても廊下を走っていた私の方なので、即座に謝罪。

「大丈夫。私も左右見ずに出てきちゃったから……」

 そう言いながら、ぶつかった相手は下に向けていた頭をゆっくりと起こした。

 ここで、私は初めて相手が誰かを認識する。

「ああ、成瀬さんだったんだ」

 フルネームは、成瀬花。

 黒目がちな二重まぶたの瞳が特徴的な、可愛らしいルックスを持つ子。
 頭が良くて大人しい性格だけど、とにかく外見のせいで目立つ目立つ。

 呼び方から分かる通り、普段はあまり関わらない相手だ。

「そっちは菅野さん。ケガしてない?」

「大丈夫。心配ありがと」

 ……自分からぶつかっておいて、その相手に心配されるとはな。

 繰り返すことがないようにと反省をして、本来の目的地であるロッカーがある場所に急いで向かった。

―――ただぶつかっただけにしては、妙に頭痛が長いな。

 ずきずきと痛む頭に、不信感を抱いたのも束の間の話。
 単なる偶然と思って、この頃の私は全然気にしていなかった……。