『僕の闇に、染めてあげる…』

 さらにその声が自分を包むように聞こえた。

「やっ…!」

 さらに恐怖が増し、少女は怯える。

「か…帰り、た……」

 少女はもう身じろぎも出来ずに泣き出してしまった。

『…なぜ皆、僕から目を背けるの…?やっと、僕を見つけてくれたのに…やっと…』

 それほど気にならなかった空気が、少し冷えて感じるほどに変わっていく。

 自分の見えない闇の中にいるこの誰かの、悲しみが伝わってくるようだった。

「…ねえ…どうしてわたしなの…?」

 少女は縮こまり怯えたまま、その誰かに向かってそう問いかける。

『君だけが、僕を見つけてくれたから。僕の“何か”を……』

 ポツリと“彼”の声。

 “彼”が言う何か、とはなんだろう?
 この感じる空気と同じ想いだろうか?

「…『影』なら見たわ…それはあなたのもの…?あなたを見つけたから、わたしなの…?」

 あの時ほんの一瞬で見えたのは、やはり彼の影だったのかもしれない。

 しかしさらに、

『違うよ、それだけじゃない。“あの時”君は僕を見つけてくれた。そして、約束してくれた。…君だけなんだ、僕を見つけてくれたのは。ねえ、僕の闇に染まって…?』

 “彼”のその言葉は、悲しげに少女の耳に響いた。

 あの時とは、いつのことなのか。
 そして、約束とは何のことなのか。
 
 少女には何も分からない。