「……約束」
小指を伸ばして、星野を見つめる。
これは昔からの癖というか、約束事をするときの絶対的なマイルールだった。
わずかに目を開いた星野は、それからひどくゆっくりと目を細めて、わたしの小指に長い指を絡める。
「約束、忘れちゃだめだからね……?」
「ああ、分かってる」
キュッと力を込めて、それから指を解いた。
彼ならわたしのわがままもなんだかんだ言ってきいてくれるんじゃないか、って。
そんな自惚れたことを思ってしまう。
次の瞬間ふっと浮かべられた微笑みを見て、傘を持ってきていてよかったと心底思った。
「ありがとな、栞」
「こちらこそ、送ってくれてありがとう。気をつけてね」
「じゃあな」
くるっと背を向けた星野。
不思議だ。
彼のことは苦手なはずなのに、わたしはいったい何をしているのだろう。
「……ほんと、どうかしてる」
小さく息を吐く。
水縹が遠ざかっていく。
その淡い光が小さくなって角に消えるまで、わたしはいつまでも見守っていた。



