「……ほ、しの。ほしのっ────」


必死にしがみつくと、やや静止した後、それ以上に強い力で抱きしめられた。


「お願い、どこにもいかないで……っ」

「落ち着け、成瀬」

「星野……ねえ、ほしのっ」

「言ったろ。俺はここにいる。
お前の────栞のそばにいるよ」


ふわ、とシトラスの香りが鼻腔をついた。

何度も流れて、頭にこびりついて離れない記憶。


涙が溢れて止まらなかった。

あとからあとから溢れてくる涙は、星野の服を濡らしてしまう。


「ほし、の。ごめ……濡れ、る」


離れようとしても、背中に回った腕により力が込められるだけで。

星野は何も言わず、わたしを決して離さなかった。



どれくらい、そうしていたのだろう。

数分だった気もするし、数時間だったようにも思えてくる。


それくらい長くて短い、永遠の一瞬。


「ほしの……海には、行けない」


ひとしきり流した涙が乾いた頃。


そう言ったわたしの頭を。


「分かった」


小さく頷いて、星野はゆっくりと撫でた。