ふっと真剣な表情になった星野は、薄くて形の良い唇をわずかに震わせる。
「────お前が俺に、最初に言った言葉を覚えてる?」
名前を呼んだのは、きっとこれを訊くためだったのだろう。
空気がガラッと変わって、星野が星野じゃなくなった。彼がまとう雰囲気が一気に変わり、いつもの星野を見失う。
わたしは、この雰囲気を纏う星野が、苦手だ。
明確な理由を問われれば「なんとなく」と曖昧に答えるしかないけれど、とにかく苦手だった。
すべてを見抜かれてしまうような気がして。彼がわたしにしか見せない顔で、ただそこにいる。
まっすぐに向けられる、いっさい澱みのない瞳を見つめ返す。日差しを受けて煌めく瞳は、どこまでも澄んでいた。
「……『あの、わたしに何か用ですか』だっけ」
出会いというものは時が経てばだいたい薄れていくものだけど、わたしと星野の場合は違う。
はじまりが、強すぎる。
あれだけ強く心に残る出会い方は、これまでもこの先もないと思うくらいだった。
だから、忘れたくても忘れられない。わたしはできるだけ思い出したくないし、記憶から消去してしまいたい。
けれど、気を緩めるとふとしたタイミングで頭の中に浮かんできてしまう。
少しだけトーンを落として答えると、星野は瞬きせずこちらを見つめてから「ふーん」と曖昧な相槌をしてシャーペンを置いた。