放るように言いながら、星野はまだクスクスと笑っている。
 囁くように笑うのは、普段教室で無表情を極めている星野には見られないことで、なんだかおかしな気持ちになる。

 彼がわたしのことを名前で呼ぶのも、こんな顔をするのも、ふたりきりの時だけだから。


 いったい何がおかしいんだか。
 もしかして、この嘘すら見抜かれている?


 不安な気持ちを紛らわすために、おろしている髪を手で梳いた。気持ちを落ち着かせるように、何度も髪に指を通す。


「お前それ、癖だよな」


 びくっと身体が跳ねた。
 星野は海色の瞳でわたしの動作をじっと見つめ、言い放つ。薄い唇がゆるりと綺麗な三日月型をつくり、星野が浮かべた艶っぽい表情に、わたしは思わず息を呑んだ。


「え……?」

「髪触るの、お前の癖」


 自分ではこの動作が癖だという認識はなかったけれど、言われてみれば癖なのかもしれない。

 不安なこと、悲しいこと、嬉しいこと、嫌なこと。ふと感情が動いたとき、無意識のうちに髪を触っているのかもしれない、と思った。