「ねえ、星野……そばにいたい」
すっと流れた瞳がわたしを捉える。
かつて、わたしが苦手だった瞳。
透き通っていて、心の奥まで見透かしてしまうような、そんな瞳。
さらりと吹いた春風が頬を撫でて、髪をさらって海に消える。
波の音だけが耳朶に響き、海の色をした瞳が今まででいちばん柔らかく、愛しさを含んだものに変わった。
「俺も」
それだけだった。
秘めていた想いを交わすには、不確かで、端的で、短すぎるもの。
けれど、それでよかった。
わたしたちの間には、明確な言葉なんていらない。
はっきりとした関係性なんていらない。
ただ星野がいて、となりにわたしがいる。
わたしがいて、となりに星野がいる。
それがすべてだ。
好き。
この気持ちは、紛れもなく本物で。
誰に何を言われようとも、簡単に消すことも、なくすこともできない。
ただまっすぐで、時には儚くて、ひたすらに美しいもの。
一緒にいたい。
となりに並ぶ理由は、それだけで十分だった。
そばにいたいと互いに願い、どちらからともなく寄り添い、となりに並ぶ。
一言では言い表せないようなわたしたちの関係は、これがすべて。
「急ぐ必要なんてないだろ。俺たちは来年も同じクラスだ。そう断言しといてやる」
「……ふっ、なにそれ」
「言霊ってあるんだよ。信じれば、いつか本当になる。お前も声に出して信じろ、栞」
「信じれば、いつか本当になる……?」
聞き覚えのある言葉に首を傾げる。
何か大切なことが思い起こされるような、そんな感覚に包まれる。



