ドクンッと高鳴る確かな音から逃げないように、ガラスドームを強く握りしめる。


海はいつだってただそこにあって。


わたしと人とを繋いでくれる、大切なものだった。



これから先、またいくつもの年を重ねて。


わたしたちはゆっくりと、けれど確実に大人になっていく。


そのとき、彼がどんな形でわたしのとなりにいて、どういう立場でわたしが彼と並んでいるのか。


今のように肩を並べて、他愛のない話をしているのか。


そんなことは、到底分からない。



けれど。


ふと顔を合わせたときに、この一瞬で過ぎ去ってしまうような、儚くて、輝いていた日々を思い出して。


記憶の蓋をそっと開けるように、そんなこともあったね、って。


わたしたちが紡いだ一ページ一ページを何度も何度もリフレインして、繰り返して、笑い合えたら。


きっと、これ以上の幸せはないだろう。



気持ちはいつだって変化しうるから。


将来、わたしのとなりを歩くのは星野かもしれないし、可奈かもしれないし、二人以外の誰かかもしれない。



そのときはきっと、"ちゃんと"笑えている、はずだ。



水の泡のようにふっと溶けて消えてしまうような、淡くて、夢のような日々。


そんななんでもない一日一日を紡いで、物語をつくっていく。


大きな出来事がなくても、それもまたわたしたちだけの、世界に一冊だけの本だから。



日常を切り取ったような、なんでもない毎日の繰り返し。


ふとした瞬間に懐かしさと共にリフレインするような、そんな物語でもいいんじゃないか、なんて。