「……行ってこい」
くるりと身体を回されて、トン、と背中を押される。
振り返ると、そこには穏やかで優しげな"父親の顔"があった。
最愛の人を亡くして、絶望して、それでも懸命に生きて、前を向いて必死に頑張ろうと決意するその顔は、ぎこちなくても、みっともなくても、わたしにとって一番格好いいものだった。
「よう……ってお前、何で泣いてんだよ」
玄関の先には、焦りと困惑がまざったように眉を寄せる星野がいた。
「星野……海に行こう。一緒に、行ってほしい」
「そのつもりでここに来たんだろ。行くぞ」
細くて白い手が差し出される。
長くて繊細な指と、少しだけ骨ばった手。
以前までは強引に掴まれて、振り払ってしまったその手を。
何度伸ばされても、拒んでしまっていたその手を。
今度はしっかりと、掴んだ。