海色の世界を、君のとなりで。


『────わたしのお母さんは、海で亡くなったの』


記憶の中の少女は母親のことが大好きだった。

だから、これが彼女を狂わせたすべての始まりだったのだと分かったとき、この腕で抱きしめてやりたくなった。

海に行けなくなった理由は、自分が思っていたよりも遥かに残酷だった。

海に行けないと泣き出した理由も、それでもなお憧れを抱く理由も、言葉にできなくなった理由も。

何もかも分かってやることができていなかった。


『……わたし、蛙化現象、起こしちゃうの』


彼女が新たに抱える葛藤。

俺に想いを向けてくれていることは分かった。

けれど、俺から彼女に想いを伝えることはできないと。