*
「前に栞ちゃんが星野くんと話している時、たまたま聞いちゃったの。だから気付いた。私を助けてくれたあの女性は、栞ちゃんのお母さんだって」
フェンスに寄りかかりながら可奈が呟く。
目の前に広がる街と溶けそうな空を眺めながら、その話に耳を傾ける。
「その話を聞いたら私、なんてことしたんだろうって思った。告白の返事を聞く前に、ちゃんと伝えなくちゃって思った」
春めいた風が優しく頬を撫でる。
「正直、怖かった。栞ちゃんのお母さんを奪ったのは私だって伝えたら間違いなく嫌われてしまうって思ったら、つらくて」
わたしに向き直った可奈が深く頭を下げる。
わたしは何も言えずにただそのようすを見つめているしかなかった。
「本当にごめんなさい。私は許されないことをした。これは事実なの」
わたしはお父さんとは違う。
大好きなお母さんが亡くなるきっかけとなった可奈を前にしてなんとも思わないかと言われたら、完全に首肯することはできない。
可奈が溺れなければお母さんは亡くならなかったかもしれない。
今もわたしのとなりで笑っていたのかもしれない。
そんなありえない世界線を思い浮かべてしまうと、どうしても複雑な気持ちになってしまう。
それでも、可奈がこれまでわたしにしてくれたことを思うと、善悪の判断など到底できなかった。
可奈の話が本当なら、お母さんのことを知ったのは最近のことで、それまでは一人の友達としてあんなにも優しくしてくれていたということだ。
罪滅ぼしや罪悪感からの行為ではないということだ。
頭を下げたまま可奈は言葉を続ける。



