「前に……どうしてバスケをしているのかって話、したでしょ?」
「……ああ」
「せめてもの罪滅ぼし、っていうのかな。わたしのお母さんはバスケットが大好きだったから、続けていればまた戻ってきてくれるのかな、なんて。最初は怖くてボールすら触さわれなくてね、だから部活も茶道部に入って、バスケとは縁のない生活をしてた。でも、兼部をお願いされたとき、神様からの思し召しなのかなって思って、始めたの」
身長が味方をしてくれたのか、生まれながらの運動神経が味方をしてくれたのか、徐々にチームから必要とされるようになって。
好きとか嫌いとか、そういうことが分からなくなっても母のために続けていた。
「……俺は」
ふいに口を開いた星野を見つめる。
彼はどこか遠くを見ながら、記憶を辿るようにぽつぽつと話しだした。
「───…惚れた女を探すために、始めたんだ」
意外すぎる理由に目を丸くすると、「笑うなよ」と釘を刺した星野は黙ってわたしを見つめ返した。
コクコクと頷くと、星野は黄昏の空に視線を流す。
「昔一度だけ会った女が、バスケをやるんだって意気込んでた。俺を救ってくれた女だったんだ。そいつにもう一度会うために、俺はバスケをやってる」
星野の抱える大きなものが、少しだけ見えたような気がした。
たとえ片鱗に過ぎなくても、少しずつ星野を知っていきたいと思った。



