「馬鹿だよね、わたし。そんなことをずっと思って生きてるの」
お母さん。
いなくなっちゃえばいいだなんて、わたし、本当はそんなこと思ってなかったんだよ。
本当に思っていなかったからこそ、あんなに軽々と酷い言葉を言ってしまったの。
お母さんはいつも優しすぎるから、その存在に甘えて。
大好きなぬくもりを感じていられることが、当たり前だと疑いもせず。
「哀しい。それなのに、涙が出ないの。一度も、出ないの」
わたしはまだ、お母さんを思って泣けていない。
涙が出ないのだ。心にぽっかりと穴が空いてしまったようで、ひどく虚無感にかられても、涙が出ることはなかった。
こんな娘、お母さんは許してくれないだろう。
『しおり。"ことだま"って知ってる?』
『ことだま……?』
『そう。言葉に宿る力のこと。……って言っても、しおりにはまだはやいか』
微笑むお母さんは、「でも、教えちゃう」と言って幼きわたしと視線を合わせた。
まっすぐで、あたたかくて、柔らかい瞳。
大きな木々で隠れてしまうわたしにそっと光を渡してくれるような、木漏れ日のような人。
『しおりが強く願って言葉にしたことは、いつか叶うの。想いが言葉にこもるのよ』
『想い……?』
『そう。だから、叶えたいことは口に出しなさい。強く願って努力すれば、必ずそれは叶うから』
ふふ、と笑ったお母さんは、わたしの頭をゆっくりとなでた。



