「……お母さん、生きてるよね?」
分かっている。
そんな奇跡のようなことが起こるはずないって、十分すぎるほど理解している。
だからこそ。
────生きてる。
そんな偽りの励ましをくれるような人じゃないって分かっているからこそ、星野に弱音を吐いてしまった。
星野なら、流してくれるだろうと思っていたから。
わたしの精一杯の強がりを、受け止めてくれる人だって知っているから。
「たまに……思うんだ。お母さんは死んでなんかなくて、どこかで生きてるんじゃないかって。ひょっこり『栞!』なんてわたしの名前を呼んで、家に帰ってくるんじゃないかって」
世界は広い。果てしない。
だから、この世界の何処かに、いるんじゃないかって。
そんなありえない希望を抱いてしまうほど、あまりにもあっけない別れだったから。
突然のさよならだったから。
もしこの世界のどこかで生きていたら……きっと海を見て笑っているんだろうな。
だってお母さんは、海が大好きな人だから。
無表情でこちらを見ている星野を見つめ返して、無理やり口角を上げた。



