「海、好きなのか」
「好き。だけど……嫌い」
包み隠していた部分。目を背けていた部分。
思い出したくない記憶。
星野には、星野になら、話せるような気がした。
彼に聞いてほしい。彼に伝えたい。
この思いを、苦しみを、彼になら。
────きっと吐き出せる。
「星野にね……聞いてほしい話があるの。聞いてくれる?」
窓の外を見る星野のとなりに並ぶ。
彼はまっすぐに空を見上げていた。
だんだん夕方に近づき、わずかに紫がかる空が、星野の瞳に映っている。
表情ひとつ変えない星野にちらりと視線をやって、それからわたしはゆっくりと、どこまでも広がる空を見上げた。
「───…わたしのお母さんは、海で亡くなったの」
どうしたって、言葉にすると唇は震えてしまう。
その瞬間、星野の目がわずかに見開かれた。わたしは、星野の長い睫毛が微かに震えるのを見ながら続ける。
「溺れた子供を助けて、死んじゃった。正義感が強い人だったから、すぐに納得できた。お母さんなら迷わず助けるんだろうなって……助けたんだろうなって思ったから」
強くて、優しくて、格好いい人だから。
自分の身を投げてでも、迷わず飛び込むような人だから。



