ホームルームが終わり、教室が賑やかになったころ、わたしは意を決して星野の席に寄った。


一昨日のことはどうせ星野にとってなかったことになっているだろうけれど、ルーズリーフのお礼を言わないのは違うと思ったからだ。



「星野」



名前を呼ぶと、流れた瞳がわたしを捉える。


一昨日と変わらない海の色をした瞳。


それでも今日はどこか不安げに揺れていて、こっちまで緊張してしまう。



「あの……ルーズリーフ、ありがとう」


「……馬鹿は風邪ひかないんじゃなかったのか」


「ばっ、馬鹿じゃないもん。星野、それって風邪ひかなかった自分のことを馬鹿って言ってるのと同じことだよ」


「……そうか」



どうも会話がぎこちない。


テンポが遅いというか、反応が薄いというか。


完全に噛み合っていない。



どういう距離感で、どういう話をしていたんだっけ。


色々なことがありすぎて、正しい彼との距離を思い出せなくなってしまった。



「あのね星野」



ガタン、と音を立てて立ち上がった星野を呼び止める。


星野は静かにわたしを見つめた。


じわりと汗が額に滲むのを感じながら、震える唇で言葉を紡ぐ。



「今日の放課後……話したいことがあるの」