とても綺麗なものだから。
透き通っていて、澱みのないスノードームだから。
……星野が買ってくれたものだから。
なんて言葉は、決して口にしてはいけないのだろう。わたしにはそんな言葉を述べる資格なんてないのだから。
「……っ、星野。濡れる、から」
「もう、手遅れだろうな」
彼はわたしと同じくらいびしょ濡れ。
それなのに、今もなおわたしに傘を差し出してくれている。
「とりあえず、立て」
うなずいて足に力を込めて立ち上がる。
彼との距離は、傘ひとつ分。彼が手を伸ばしているから、わたしは濡れずにすんでいる。
けれど、このままでは星野が濡れてしまう。
近付かなくてはいけないのは分かっているのに、一歩が踏み出せない。
星野もまた自分の方に傘を引く気はないようで、自らの服や髪が雨に濡れていくのを気にせずにただひたすら傘を向けてくれている。
「……いい、星野。濡れるでしょ」
「言っただろ。もう手遅れなんだよ」
再び言って、星野は柔らかく笑った。今までで一番穏やかに、その瞳の奥にわずかな愛しさのようなものを秘めて。
そのまなざしは、揺らぐことなくわたしに向けられている。
彼の唇がゆっくりと動く。
いったいどんな言葉がその唇から紡がれるのだろう。
静かにその唇の動きだけを見つめる。



