「いつか病気が治って元気になったら、一緒に海を見にいこう」
何を言っているんだ。そんなの、できるわけないじゃないか。
ふいに口から出そうになった言葉を飲み込む。あまりにもまっすぐな光を見ていると、自分の中の何かが狂ってしまうような気がした。"もしかしたら"なんて、そんなふざけたことを一瞬でも思いそうになった自分が情けない。
うつむいたまま、事実だけを述べる。
「……治らないよ、俺の病気は」
「そんなことない! 絶対治るよ!」
無邪気に笑うその少女は、自らの胸に手を当ててまっすぐに俺を見据えた。
「『ことだま』ってあるんだよ。信じれば、いつか本当になる」
「……ことだま?」
お母さんが言ってたの!と笑うその顔は、今まで見た誰よりも輝いていた。眩しすぎるその笑顔に、ドク、と鼓動が何かを知らせるように、一度だけ跳ねた。
「わたしのお母さんはね、すっごいんだよ。海でお仕事をしててね、すっごくかっこいいんだあ」
母親のことが大好きなんだろうな、と思った。
それくらい、母のことが好きだという気持ちが彼女の身体中から溢れ出していたから。
『なんでこんな身体に産んだんだよ! 母さんのバカっ』
いつかの日、そんな言葉を吐き捨ててしまったことがある。
母さんははっと目を開いて、それから悲しげに瞳を伏せて肩を震わせて、
『……ごめんね』
ただ、ひと言。そう呟いて、泣いた。
違う。違うんだよ、母さん。
本当はこんなこと言いたいんじゃないんだ。
俺のために一生懸命頑張って、毎日寝不足の中俺の世話をしてくれてるのを知ってる。
分かってるのに。
だから、母親を大好きだとこんなにも胸を張って言える彼女が羨ましかった。
俺とは正反対で、自分が惨めで仕方がなくて。



