海色の世界を、君のとなりで。

 俺の場合、割と初期の段階で病気が見つかったらしく、すぐに治療がスタートした。

 先行きの見えない不安、何をされるのか分からない不安、もし仮にこの病気が治ったとして、俺は今までのように普通の生活ができるのか。

 そもそも、普通ってなんだ?

 大きな闇に呑み込まれてしまいそうになって、何度も自分を強く持とうと頑張った。それでも、俺が抱えるにはやっぱり重すぎるもので。
 いや、誰が抱えたって重すぎるものだ。


 廊下の窓から外を眺める。広がっているのは、水縹色の空。どこまでも青くて、澄んでいて、美しい。
 この向こうには、いったいどんな世界があるのだろう。

 物心ついたときからここにいるから、だから小さい時の記憶なんてない。

 外を走った記憶も、太陽の下で遊んだ記憶も、何もない。俯いて、つま先を見つめる。

 今は自分の足で立って、こうして歩くことができているのに。これから先、それすらできなくなってしまうのだろうか。
 希望は何ひとつとして持てないのに、絶望に伏すことだけはいくらでもできる。

 こわい。
 そんなことになってしまえば、きっともう終わりだ。