海色の世界を、君のとなりで。

【星野side】

 身体が悲鳴を上げている。
 心も悲鳴を上げている。

 いや、心は悲鳴を上げていなかった。上げることすらできないほどに、弱りきって廃れて、もう心が心ではなくなっていた。

 小学一年生、春。
 本来であれば、笑顔いっぱいで入学式をして、たくさん友達をつくって一緒に勉強して、身体をめいっぱい動かして。楽しいね、嬉しいねって笑顔が絶えない。
 そんな、出会いの春。


(……どうせ、死ぬんだろうな)


 子供ながらに、漠然と考えていた。
 近いうちに、この命は尽きてしまうのだろうと。

 大人になることなどできないまま、寂しく可哀想な子供として死んでいくのだろうと。

 ─────急性リンパ性白血病。

 のちに聞いたところによると、俺の病気はそういうものだったらしい。

 小児がんとして多くあげられるもののひとつで、血液が正常に働かなくなってしまうゆえに治療が困難で苦しいものであること。

 両親は当時病気について、細かいことはまったく教えてくれなかった。

 俺が抱えきれるものではないと判断したのだろうけれど、それでも俺はちゃんと言ってほしかった。

 何度も何度も問い詰めて、「血液の病気」ということだけは教えてもらうことができた。

 そして、何を根拠にか全く分からないが、「大丈夫。あなたは治るから」と口を揃えて俺に語りかけてきた。


 医療の進歩で昔は治らなかった病気も"治る病気"に変わりつつある今。

 それでも、この世界に絶対なんかない。

 そんなことは、ここに入院してから何度だって目にしてきた。


 誰もが死を感じさせないように強がって、それでも最後には死に怯えて命を散らす。

 仲良くなった友達だって、何人も涙を流しながら空にのぼってしまった。

 俺もきっとひとり孤独に、外の世界を知らないまま死んでゆくのだろう。



 俺は淡々と、そんなふうに自分の未来を予測していた。

 希望を失う、というより、そもそも希望の持ち方を知らなかったのだ。