海色の世界を、君のとなりで。


「なんか、わたしの世界みたい」


 どこにいっても、どんなときでも光なんて見えなくて。

 一度消えてしまったら、あかりは再びともることはない。

 そしてそのあかりを消してしまったのは、正真正銘、自分自身だ。



 もしもこの世に神様がいるのなら、どうか力を貸してください。

 あのガラスドームだけは、"なくしちゃいけないもの"なんです。

 今までなくしたものたちも、本当はすべて守りたかった。
 ……けれどできなかった。


(わたしはもう二度と、同じ失敗を繰り返すわけにはいかない)


 だから、どうか、どうか。


「……あ」


 暗闇の中で、きらりと光ったものは海色。

 わたしの大好きな人を奪ったのも海色。

 わたしに愛を与えてくれたのも海色。

 わたしが恐れるものも海色。



 大切なものは、いつだって海色だった。



 近付いて、その"海色"を拾い上げようと屈む。

 けれど安堵からか、ガクンと膝から力が抜けてしまって。

 力なくその場に膝をついて降り注ぐ雨に打たれながら、そのガラスドームを握りしめる。


 濡れるとか、汚れるとか、そんなのはもうどうでもよかった。
 誰かに見つかるとか、怒られるとか、そんなこともどうでもいい。

 わたしがずっと恐れてきたもの、殻をかぶって守り続けてきた縛りは、これをなくすことに比べたらちっとも怖くない。
 そう思えてしまう圧倒的な存在に、きっとわたしは出逢ってしまった。


「……よかった、あった……」


 暗い世界。真っ黒な世界。
 どこまでいっても永遠と続く闇のような世界。

 ただ、そんな世界の中に唯一光るものがあったとすれば。

 消えてしまったあかりを、再びともしてくれる存在がいるとするならば。