「……っ」



足が、止まった。


止めようと思ったわけではないのに、ピタリと止まって動かなかった。


身体が、心が、ここから離れることを拒絶している。



だめでしょう、戻りなさい。



そんな声が頭の中で響くような感覚がした。


その声は、いったい誰のものなのか。


自分のものじゃない。


優しくて、懐かしくて、あたたかいその声は。


間違った道を進もうとするわたしに、正しい道を教え諭すような、そんな響きをしていて。



『────また、なくすの?』



柔らかく、それでもたしかな強さを秘めて。



違うでしょう、間違っているでしょう、栞。



雨音に紛れるようにして、それでもわたしの耳にはっきりと届いた声は。


昔と変わらず、穏やかで、強くて、落ち着いていて。



『……進みなさい、栞』



トンッ、と。


わたしの背中を優しく押してくれた"彼女"は。



「……ありがとう」





わたしがなくしてしまった──



───…大好きな人。