海色の世界を、君のとなりで。


***

「────気がついた?」


柔らかい声がした方を向くと、声によく合った優しい笑顔が向けられる。


「……ここは」

「保健室よ。軽い貧血をおこしたみたい。もう大丈夫?」


ベッドに歩み寄ってくる先生は【養護教諭 岡本理子】と書かれた名札をつけていた。

基本的に健康体で、保健室に来るのはこれが初めてだったので、当然彼女と言葉を交わすのもこれが初めてだ。


「大丈夫です」


正体不明のむかむかは消えていて、安堵でふう、と息が洩れる。


「……どうか、されました?」


さっきからやけにわたしの顔を見てくる先生に訊ねてみると、先生はゆるりと唇の端を上げて笑みの形をつくり、「実はね」と口を開いた。


「ここまで星野くんが運んできてくれたのよ。言わないでって口止めされていたんだけど、我慢できずに言っちゃった。格好いい彼氏がいて、頼もしいわね」