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「────気がついた?」
柔らかい声がした方を向くと、声によく合った優しい笑顔が向けられる。
「……ここは」
「保健室よ。軽い貧血をおこしたみたい。もう大丈夫?」
ベッドに歩み寄ってくる先生は【養護教諭 岡本理子】と書かれた名札をつけていた。
基本的に健康体で、保健室に来るのはこれが初めてだったので、当然彼女と言葉を交わすのもこれが初めてだ。
「大丈夫です」
正体不明のむかむかは消えていて、安堵でふう、と息が洩れる。
「……どうか、されました?」
さっきからやけにわたしの顔を見てくる先生に訊ねてみると、先生はゆるりと唇の端を上げて笑みの形をつくり、「実はね」と口を開いた。
「ここまで星野くんが運んできてくれたのよ。言わないでって口止めされていたんだけど、我慢できずに言っちゃった。格好いい彼氏がいて、頼もしいわね」



