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「俺、好きなやついるから」
その言葉を聞いた瞬間、ドキリと心臓が嫌な音をたてた。咄嗟に身を翻して、壁に隠れる。
十二月半ばの今日。
窓の外では粉雪が舞い降りて、世界を白く染め上げていた。
聞いてはだめだと頭の片隅で思うのに、足が固まったように動かない。
息を殺してそろりとのぞいてみると、そこには顔を歪める女の子と、星野の後ろ姿があった。
ツインテールをゆるく巻いて、メイクもバッチリな彼女は確か同学年で可愛いと噂されている牧野さんだ。
可奈ほどではないにしろ相当可愛い女の子だ、と上から目線で失礼極まりないことを思ってしまう。
「誰? 何組? もしかして他校の子?」
せめて少しでも相手の情報を聞き出そうとする彼女に星野は「それ、お前に言う必要あんの?」と冷たく言い放った。
容赦ない彼の物言いに、牧野さんの顔がみるみる赤くなっていく。
……うわ、ひっど。
彼の性格上、はっきりとものを言うことは分かっていた。けれど、もう少し言い方があったんじゃないの、と思ってしまう。
もしわたしが牧野さんの立場だったら、好意を寄せていて勇気を振り絞って告白した相手にあそこまで冷たく言われてしまっては到底立ち直れないだろう。



