「……栞ちゃん」
ひゅうっと冷たい風が吹き、あまりの寒さに身震いする。
声がして振り返ると、そこには可奈の姿があった。
「可奈。こんなところに来たら風邪ひくよ」
旅館の中で、唯一風に当たれるスペース。
ベランダのようになっているここは、ちょうど先生たちの部屋から見えない角度にある。
とはいえ見回りに来られたらいっかんの終わりだ。
「だから迎えにきたの」
ふわっと微笑む可奈は、フェンスに寄りかかるわたしのとなりに並んだ。
「夜風って冷たいんだよ?こんなところにずっと居たら体調崩しちゃうよ」
「……うん。もう少ししたら戻る」
「じゃあ私も栞ちゃんが戻るまでここにいる」
まるで決定事項とでもいうかのように微笑む可奈は、遠くの方に視線を投げた。
「迷惑かけてごめん。格好悪いとこ見せちゃったよね」
「ううん。全然そんなことないよ。栞ちゃんはいつだって格好よくて可愛い、私の憧れの人だから」
ぶんぶんと首を横に振る可奈。



