海色の世界を、君のとなりで。


「でも、どうして? 可奈好きな人いんの?」


 白雪さんの言葉に、可奈は少し目を伏せる。それから「いないよ」と呟いた。
 そのようすに、どこか違和感を覚えてしまう。あまり言及しないほうがいいんじゃないか、と唐突に思った。


「ま、まあ誰でも色々あるよ。これ以上きくのはやめよ、ね?」


 慌てて口を挟むと、今度は突然わたしに話の矛先が向いた。
 内心、やばい、と思いつつも笑顔を崩さないよう集中する。


「そういう栞はどうなのよ」
「彼氏いる? そもそも好きな人とかいるの?」


 ぐっと言葉に詰まる。まさかこんな展開になるとは思っていなかった。


「いないよ。彼氏も好きな人もいない」


 小さく息を吸ってから、はっきりと告げる。
 返答が遅くなったり、声が震えたりは決してしなかったはずだ。上手くやり切れたはずだ。