海色の世界を、君のとなりで。


そのまま店を出ようとするわたしに、星野は訝しげな視線を向けてきた。

思わず足が止まる。


「……ほんとに、いらねえの?」

「え」


まっすぐ、射抜くような視線。

一度捉えたものは逃さないような、迷いのない瞳。


「気になってるんだろ。買えば?」

「……でも」


買ってしまったらきっと、海に行きたくなってしまう。

でも、それは許されないこと。

心も身体も、拒絶反応を起こしてしまうから。

いつかの日のように、自分を抑えられなくなるだろうから。


揺らぎそうになる気持ちをかき消すようにぶんぶんと首を振ると、星野はひとつ息を吐いて目を伏せた。


「……買ってやる」


一言呟いて、わたしの言葉を聞くより先にレジへ持っていってしまった。

そして素早く会計を済ませ、あっという間に戻ってくる。


差し出された小さな袋には、先ほどの海色のネックレスが入っていて。

それでも彼はいつも通り、なんでもないような顔をしているから。


「……お金、返すよ」

「いい」

「え、でも……」

「うっせーな。受け取っとけ」


そう一言だけ言うと、ずんずんと歩き出してしまった。

慌ててその背中を追う。