「小鞠、さんっ」


少し裏返った声が、可奈を呼ぶ。

その声に、既視感ならぬ既聴感をおぼえる。


くるりと振り返った可奈をまっすぐに見つめる香山くんは、ぶるぶると唇を震わせながら、何度も自らの拳を握りしめる。

これはいったい、何が始まってしまうのだろう。

困ったように眉を寄せる可奈は、不安げな瞳でちらりとこちらを見た。


「可奈……」


助けようと名前を呼んだ途端、パッと手を掴まれて振り返る。

そこには、色素の薄い綺麗な顔があった。


「……星野」


何するの、と眉を寄せるものの、どこまでも無表情の星野に手首を掴まれたまま強く引かれる。

当然のことながら、力の差は歴然だった。


細身のくせに意外と力があるんだな、なんて、本人に言えば怒られてしまうようなことをぼんやりと思う。


ずるずるとわたしを引きずるようにして二人のそばから離れた星野は、人気(ひとけ)のないところまでくるとようやく手を離した。