「……っ、は……」
空気が薄い。
浅い呼吸を何度も繰り返して、街灯のない暗い道を走る。
なんで。どうして。
だめだよ────そんなの。
走りながら、あそこで手を振り払ったのも、逃げるようにここまで来たのも、すべて正解だったと思った。
少しだけ惜しかった、なんて、決して思ってはいけない。
わたしは"普通"ではないのだから。
「……っう」
なぜだか無性に涙が込み上げてきた。
拭うこともせず、感情にまかせてただひたすらに走る。
涙のあとを夜風が撫でて、通り過ぎてゆく。
唇を噛みしめてもとめどなく溢れてくるそれは、暗い道路にわずかなシミをつくった。
「……もう、やだ……」
どうしてわたしは自分の気持ちを表に出してはいけないのだろう。
このまま夜に紛れてしまいたい。
こんな自分、大嫌いだ。
もしも存在を消すことができたなら、どんなにいいだろう。
わたしが、成瀬栞という存在が、初めからこの世になかったのなら。
きっとこんな感情を味わうことなんてなかったはずなのに。



