田舎の夜道は人通りが少なくて心配だけど、香山くんがそばにいるなら大丈夫だろう。
ひょろっとしていて、お世辞にも屈強とは言い難い彼だけれど、それでもれっきとした男の子だ。
自分から送ると言いだしたのだから、きっと何かあれば可奈のことを全力で守ってくれるだろう。
ただひとつ気になることがあるとすれば、さっきの可奈の憂いを帯びた表情だけだ。
「────帰るぞ」
二人の背中が夜の闇に消えたところで、星野が言った。
ずんずんと歩き出す背中を見つめていると、くるりと振り返った星野が「何してんだよ」と訝しげに眉を寄せる。
「え?」
「帰るっつってんだろ。来いよ」
彼の言葉は喧騒にかき消されることなく聞こえているけれど、頭の中でその意味を上手く理解できない。
パチパチと瞬きを繰り返していると、「チッ」と苛立たしげに舌打ちした彼はつかつかとわたしのもとへ戻ってきて、立ち尽くすわたしの手を強引に掴んだ。
「行くぞ」
そのまま手を引かれて、歩きだす。
突然のことに、頭が真っ白になった。



