「送ってくよ」
そんな言葉が可奈にかかったのは、花火が終わり、ぞろぞろと人の波が流れだした頃だった。
「一人で帰るんでしょ、小鞠さん」
「え……あ、うん。まあ……」
「だったら暗くて危ないし。送っていくよ」
歯切れの悪い返事をする可奈は、ちらりとわたしに視線を遣った。
そんな可奈に小さく首を振って、気にしないで、と伝える。
わたしと可奈の家は、この祭りの場所からは互いに反対の場所にあるから、必然的に一人で帰ることになってしまうのだ。
辺りはもう暗くて、たしかに可奈を一人で帰させることに多少の不安はあった。
香山くんが名乗り出てくれるのであれば、可奈も一人で帰るよりは安心だろう。
「じゃあ……お願いしようかな」
可奈の言葉に香山くんはぱあっと顔を明るくして「任せて」と意気込んだ。
「じゃあな、星野。あと、成瀬さん」
「あ……うん。ばいばい、可奈」
小さく頭を下げただけの星野とわたしに向けて、香山くんが手を振る。
けれどわたしは可奈のことで頭がいっぱいだった。
どこか暗い彼女の名前を呼んで、手を振る。
返ってきたのは弱々しい笑顔だけだった。
「気をつけて……」
可奈の背中が小さくなっていくのを見送る。



