海色の世界を、君のとなりで。

 会場全体から声が上がり、プレーをしていた選手もベンチにいた選手も全員が彼の元へ駆け寄った。

 彼は揉みくちゃにされながら、笑顔を浮かべるでもなく嫌そうな顔をするでもなく、無表情のままでいる。

 それでもハイタッチには素直に応じたり、先輩に声をかけられた時には礼儀正しく礼をしていて、周りの気分を害すようなことは何一つしていない。


「やっぱりエースだよねえ、星野(ほしの)くん」


 輪の中心にいる彼を恍惚(こうこつ)と見つめる可奈の声で、自分がしばらく彼を見つめていたことに気がついた。

 慌てて視線を戻して可奈を見ると、そこにはとろけそうな笑顔が咲いている。


「はあ……本当にかっこいい。いつかあんなふうになりたいなあ」
「別に……あの局面で普通スリー打つ? 無茶にもほどがあるでしょ」


 先に口をつくのは非難の言葉。
 心の中ではすごいと思っているのに、それを口に出すのはものすごく苦手だ。

 ……あの場面でスリーを打てる度胸があるのも、ちゃんと決める実力を兼ね備えているのも、本当はすごいと思うし尊敬している。
 練習しているからこそ生まれる自信だということも、理解している。


「でもちゃんと決めきるんだもん。すごいなあ」
「まあ……うん」


 曖昧に頷くのが精一杯な自分自身に嫌気が差す。
 星野のことになると、わたしはなかなか素直になれない。

そんなのはいけないと、分かっているのに。


 暗澹たる思いに陥っていると、となりで男子チームを眺めていた可奈が、「あっ、星野くんこっちくる!」と声を上げた。