「……浴衣」



 残されたもの同士、気まずい沈黙を破ったのは星野だった。


 「ん?」と聞き返すと「それ、向日葵か」とまた返される。



「いや、どうやったらこれが向日葵に見えるの」

「じゃあ、何の花だ」

「……菖蒲(あやめ)だよ。あやめ」



 ふうん、と呟いた星野は、くるりと背を向けて歩き出す。


 涼しそうな白いTシャツから伸びる白い手を頭の後ろで組んで、空に顔を向けながら足を進める星野。


 モデル顔負けのスタイルが一際目立っていて、私服に少しときめいてしまった自分が悔しい。


「待って……!場所分かるの?」

「香山から連絡きてる」


 片手でスマホを振る星野に追いついて、となりに並ぶ。


 星野はわたしにスマホの画面を見せて苦笑した。



「いいベンチが空いてたんだとさ。座る順番もほら、決められちまってる」



 そこには添付されたベンチの写真と、『星野、成瀬さん、小鞠さん、僕の順番でよろしく!』というメッセージが表示されていた。

 一応わたしと可奈が隣になるように配慮してくれたみたいだけど、それにしても可奈のとなりをがっちりキープしようとしている姿勢に、星野と同じく笑いが洩れる。


 もっとも、それは呆れからくる笑いだ。