「だめだ……言えない」
言えないまま、相手のオフェンスが始まってしまう。
ファウルゲームに持ち込まなければならない。
必死にファウルをしにいくのに、上手くボールを回されてどんどん時間だけがすぎてゆく。
焦りが募れば募るほど、強引な動きが増えてしまって。
やっとファウルしたときには、時間は十秒を切っていた。
監督によってタイムアウトがとられる。
水分をとりながら監督の指示を聞き、返事をしてコートに戻る。
「栞。あんたなら大丈夫。何があってもカバーするから」
コートに入る直前、真波先輩がわたしの背中を叩いて、となりを通り過ぎていく。
「……っ、ありがとうございます!」
いつも怖い先輩なのに。
苦手なはずなのに。
今は誰よりもわたしを励ましてくれる、心強い背中だった。
ドクン、ドクンと鼓動がうるさい。



