「立てる?」
聞こえてきたのは、可奈とはまったく違う響きで。
驚いてその姿を瞳に映す。
彼女は。
いや、彼女たちは。
「……中山さんたち…?」
両側から支えられるようにしてコートから出る。
隅の方に座らされて、救急セットを持ってきた中山さんは黙って処置を始めた。
「どこが痛い?」
「……あ、足首」
素早く様子をみた中山さんは、テーピングテープを取り出した。
「成瀬。お前、大丈夫か」
状態を見にきた監督に迷いなく頷く。
お前はこの先まだ出れるのか、そう問われている気がした。
「出れます。まだやれます」
監督は静かに考えていたけれど、わたしの目を見つめ返すとこくりと頷いた。
「そうか。だが、無理だけはするな」
「はいっ」
そう言った監督はベンチに戻っていく。
今しか、ない。
ここしかないんだ。
わたしは静かに中山さんに向き直った。
伝えなければならないことがある。
「中山さん、あのときはごめ────」
「今謝罪とかいいから」
ピシャリと言い放たれて、言葉を呑み込む。
言わせてもくれないのか、彼女は。
足首に巻かれるテープを見つめながら、その手際のよさに驚く。



