学校の帰りの乗り換えのホームや電車内で磐田君がいないかチラチラとあたりを気にしてみた。
行きに会うのだからもしかしたら帰りにも会うかもしれないと思ったからだった。
しかし、そんな簡単には会えなかった。
少し、残念な気持ちになる。

 あ、そうだ。メッセージの返信してなかった。

磐田君からのメッセージの返事を送る前にカバンにスマホにしまい込んだことをやっと思い出し急いで返信をした。
事実上、『既読スルー』になってしまい、磐田くんが怒っていないか不安になる。

『返信が遅くなってごめんなさい。「夏の色」という恋愛小説です。』

二駅分くらい何て送るか悩んだが、結果、シンプルに送ることにした。
すると送ったメッセージに直ぐに[既読]のマークがつく。

 直ぐに[既読]がついたってことは磐田君の学校も授業終ってるのかなぁ??

もう一度、電車の中を見渡し探してみるがやっぱり彼はいなくて、再び残念な気持ちになる。

『あの後返事がなかったから、聞いちゃまずい本なのかと思った。』

という彼からのメッセージの後にホッとした猫のスタンプがついた。
彼のきっちりとした見た目と送られてきたゆるい猫のキャラクターのギャップにくすりと口角が上がった。

 こんなスタンプ使うんだ。ふふっ。

彼のことを少し知れた気分になり嬉しくなった。

『俺は弓道部なんだけど、これから部活なんだ。』

 …そういえば真美ちゃんがそんな事を言ってたなぁ…。

これから部活だというので、彼が送ってきてくれた様な緩い感じのキャラクターで『がんばれ!』というスタンプを送ってみると、先ほどと同じゆるい猫のキャラクターのスタンプで『ありがとう』と返ってくるといつもと同じ電車なのに遠足に行くみたいにわくわくした気持ちで帰宅した。

リビングのソファにカバンを置くと飲み物を取りに冷蔵庫に向かいながら、母と姉に今朝の出来事、本の内容に感動して泣いてしまったところを見ず知らずの男の子が心配して声を掛けてくれたと話をすると大笑いしていた。

「あんたは昔から物語にのめりこみやすいからね~。本を読むたびに登場人物になりきってたもの~。」

洗濯物をたたみながら母が懐かしがりながら笑う。

「覚えてる!白雪姫にはまった時なんか、奈々ったらよくお隣にいた(あおい)くんを王子さまにして白雪姫ごっこしてたもんねー!あたし、魔女役やらされた記憶ある~。お母さんの口紅耳まで塗られてさー、魔女って言うより口裂け女だよね~(笑)」

「あらやだ、やたらに首紅が減る時があったけど、遊びに使ってたのね!」

お姉ちゃんが昔の事を思い出したようだった。

「もぉ~~!二人とも子どもの頃の話は恥ずかしいからやめてっ!」

小さいころの話をされ耳まで赤くなってしまった。